苦手な英語を武器にする勉強法
「英語を苦手にする受験生が、英語を得意科目にする方法がある」と聞いて胡散臭いと感じるでしょうか。しかし実際に、入試の英語で高得点をあげている人全員が、英語が得意なわけではありません。
苦手科目でもやり方次第で好成績を収めることができるのが受験の面白いところです。なぜなら、入試問題は解けるようにつくられていて、さらに、解く方法が公開されているからです。つまり、得意であろうと苦手であろうと、解く方法を身につければ入試で得点できるのです。
ただ、苦手な英語を得意科目にすることは、簡単なことではありません。しかし、これから紹介する英語の勉強法は、英語を苦手にする人向けに開発されたものです。したがって、この方法を確実にこなしていけば、1年で目標を達成できます。苦手な科目で得点を稼ぐことができれば、志望大学を1~2ランク上げることができます。
システマチックに学習していこう
英語が苦手な人は、なぜ勉強に時間をかけても上達しないのでしょうか。それは嫌々勉強しているからです。そして英語は「本能的に」学べる科目ではないからです。例えば、現国は本能的に学ぶことができる科目です。現国の試験で出題される評論や小説は、元々入試用につくられたものではありません。評論も小説も、社会活動や娯楽のためにつくられた文章で、それを入試に使っているだけです。したがって、現国という科目を意識しなくても現国に強い受験生はいます。
しかし、受験英語は、日本人にとって必要不可欠なスキルではありません。しかも英語の試験の問題文は、日本語に翻訳しても理解に苦しむ内容が英語で書かれています。さらに英語は英語の論理で表現されているので、日本語の論理が身についている日本人には、例えひとつひとつの英単語の意味がわかっても理解しにくいものなのです。
これが、英語は本能的に修得できる科目ではない、の意味です。英語を苦手にする人のほうが普通なのです。
だから英語は、システマチックに勉強していきましょう。学習する内容を決め、終わらせる時期を定め、学習を実行し、記憶できていることを確かめ、次の学習に移る――を繰り返すのです。英語をシステマチックに学ぶことを決めてしまえば、あとはスケジュールどおりに学習を進めるだけです。
暗記の前に理屈を覚える
英語を苦手にする人は、記憶の作業を苦手にする人が多い特徴があります。数学や物理のように理論的に解いていくことが得意な人は、得てして「これを覚えなければ解けない」という暗記問題に苦労します。
ただ英語は、暗記が必要な問題が多く出る科目ではありますが、理屈が通用する部分もあります。したがって、理屈で理解できる部分は理屈で覚えてしまい、残りを暗記するようにすればいいのです。
このような段取りを踏むと、暗記すべき項目が減ります。また、理屈で覚えた部分がきっかけとなって、スムーズに暗記できるようになります。
一例を紹介します。
◇Could be.を理屈で覚えてみる
例えば「Could be.」は「そうかもしれません」と暗記しなければなりません。この言葉は、例えば次のような会話で出てきます。
Will it rain tomorrow? (明日は雨でしょうか)
Could be. (そうかもしれません)
なぜCould be.を暗記しなければならないかというと、この文章は破綻しているからです。言語はしばしば破綻し、破綻したままでも意味が通じます。しかし、外国人(英語にとっての日本人)は、破綻した英語を理解することに苦労します。Could be.はどのように破綻しているのでしょうか。次の3つのルールはご存知でしょうか。
・couldはcanの過去形だから「できた」という意味になる
・beはbe動詞の原形で「A=B」の文章をつくる
・助動詞のcouldが文頭に置かれる場合は疑問形になる
Could be.はこの3つのルールのどれにも当てはまりません。理屈で問題を解くことが好きな人は、「Could be.=そうかもしれません」がこの3つのルールに合致しないことを理不尽に感じます。そして「Could be.=そうかもしれません」を丸暗記することに強い抵抗感を覚えます。
ところがこれを理屈で覚えることができます。Could be.は実は「It could be true.」の一部を抜き出した文章なのです。このcouldは過去を示すために使われているのではなく、仮定法のcouldです。したがって「もしかしたら~かもしれない」という意味が含まれています。Itとtrueは省略されていますが、これは言語ではよくあることで、例えば日本語でも以下の会話のように言葉が省略されます。( )内は言葉を省略しない表現です。
明日は雨でしょうか(明日は雨が降るでしょうか)
そうかもしれません(明日は雨が降るかもしれません)
したがって「Could be.=そうかもしれません」を丸暗記することが嫌な人は、次のように論理的に覚えればいいのです。
・couldが出てきたら仮定法を疑う
・英文は頻繁に単語が省略される
それでも暗記は重要「きっかけを探せ」
英語では常に「Could be.はIt could be true.の省略した形」と論理的に説明できるわけではありません。したがって英語を得意科目にするには、暗記を完全に回避することはできません。では、暗記が苦手な人はどうしたらよいのでしょうか。きっかけを探せばいいのです。きっかけの探し方を解説します。
次の用語をご存知でしょうか。
・コンシーラー
・スケッチブック
・オリエンテーション
・エキゾーストノート
・コンセプトカー
これらの用語は知っている人はよく知っていますし、知らない人はまったく知らないはずです。
コンシーラーは化粧品の一種で、顔のシミを隠すものです。
スケッチブックは絵を描くための紙の束です。
オリエンテーションは、新しく発足したグループのメンバーが集まって今後の活動内容を決める会合です。
エキゾーストノートは自動車やオートバイのエンジンの排気音のことです。
コンセプトカーとは、理想の自動車を形にした実寸大の模型です。
このような知識を持っていると、以下の英単語の意味を覚えることは簡単です。
conceal 隠す
sketch 描く
orientate 方向づける
exhaust 排気、使い切る、疲れさせる
concept 概念
マニアックなカタカナ言葉を知っていれば、それをきっかけにして本物の英語を覚えていけばいいのです。記憶が必要な勉強を嫌う人は、覚えたはずなのに簡単に忘れてしまう自分にストレスを感じています。つまり、覚えること自体を嫌っているわけではありません。そこで忘れない方法で覚えていけば、勉強のストレスを感じずに済みます。
◇「きっかけ」暗記術の限界
ただ、「きっかけ」暗記術は限界があります。次のような単語は、きっかけをみつけることが難しいでしょう。
abstract 抽象的な
detrimental 有害な
advocacy 提唱
oblivious 気がつかない、忘れがち
これらの単語は純粋に丸暗記するしかありません。しかし「Could be.」理解法やきっかけ暗記術によって多くの項目を記憶していけば、単純暗記法で覚える項目を減らすことができます。
嫌いだからこそスケジュールが必要
システマチックに英語を勉強するには、学習計画とスケジュール管理の2つが必要です。「計画どおりに勉強する」と決めることで勉強を自動化するわけです。
高3の4月から翌年の2月上旬までの10ヵ月半にやることを決めてしまいましょう。
◇第1期(4~8月) 「嫌なことを先に片付ける」思想で単語と文法を済ませてしまう
英語の勉強が嫌いな人でも、英文の内容を理解することは知的欲求を満たしてくれるので楽しいはずです。その楽しさに近付くには、単語と文法の知識を蓄積しなければなりません。高3の4月から夏休みまでは、単語と文法に専念しましょう。単語については、先ほど紹介したCould be.方式やきっかけ暗記法で覚えていきます。
文法では、文型、接続詞、関係詞さえマスターしてしまえば「英文がみえて」きます。「英文が浮き上がってくる」といってもいいかもしれません。長文読解を苦手にする人は、英文が単なる英単語の羅列にしかみえません。
しかし、文型、接続詞、関係詞が理解できると、複数の英単語がかたまりになって意味をつくっていることがみえてきます。さらに、かたまりとかたまりがどのような関係になるのかもみえてきます。これが「構文がみえる」状態です。構文さえみえれば、あとはテクニカルな単語の意味がわかれば、日本語のように理解できるようになります。
◇第2期(9、10月) 「多読」をして英文を読めるようになる
英単語と文法を頭に叩き込んだら、それを使いこなしていきましょう。9、10月は多読に取り組みましょう。解説文が多い長文読解の問題集を選んで1冊仕上げることを目指します。
このとき、長文を「なんとなく」読んではいけません。長文を読んで、単に「友達のつくりかたを説明している文」とか「アメリカ人とイギリス人の気質の違いを解説している論文」ととらえて終わりにしないでください。それでは力がつきません。
1つの長文を読み込むとき次のことをしてください。
・記憶にない単語を洗い出す
・1文1文の構造を明らかにする
・指示語や代名詞が何を指しているのか明確にする
・段落ごとに要約する
・全文を和訳して、解説の訳文と比べる
・訳文だけをみて、元の英文をつくる
機械を分解して、分解した部品で再び機械を組み立てるイメージです。1つの長文に2、3時間かけてもかまいません。ネイティブ(英語を母国語にしている人たち)なら数分で読み終えて理解できる英文に2、3時間かかるのは、頭のなかに入っている単語や文法を引き出すことに苦労しているからです。これが、自分の英語の実力です。そして2、3時間かかっていた作業を1時間に短縮することが、9、10月の目標です。
◇第3期(11~2月上旬) ひたすら過去問に取りかかる
11、12、1月と2月上旬は、ひたすら過去問に取りかかります。この時期は「機械の分解と組み立て」のような勉強をするのではなく、とにかく大量の英文に接するようにしてください。例えば、慶応大学の英語の試験時間は120分。慶応を狙っている受験生は、過去問を解くときにこの時間内に解くようにしてください。
本命大学と滑り止め大学を受験する人は、本命大学の過去問からとりかかりましょう。それは一般的に本命大学の問題のほうが難しいからです。本命大学の過去問を解き終わり、滑り止め大学の過去問に取りかかったとき簡単に感じたら、力がついてきた証拠です。ただし、簡単に感じても、滑り止め大学の過去問も解きましょう。滑り止め大学を不合格になるわけにはいかないからです。
◇ハードなスケジュールをどう乗り切るか
英語を苦手にする人が「第1期:単語と文法」「第2期:多読」「第3期:過去問」のスケジュールをみると、とても乗り切れそうにないと感じるかもしれません。しかし、単語と文法さえ固めておけば、多読と過去問の勉強は「楽しく」進めることができるでしょう。
それは「わかる」からです。英文がわかると、ネイティブたちの思考がみえてきます。これまで日本人の思考しかみえなかったのに、アメリカ人やイギリス人の考えがわかるようになります。これは快感です。
英語を苦手にする人が英語の勉強をするので、苦労の連続です。苦労を続けるには、ところどころで「報酬」を得る必要があります。例えば、模試の成績が急上昇したときの快感も報酬です。模試で、志望大学にA判定がつけばそれも報酬です。「単語と文法の勉強の苦しささえ乗り切れば報酬が得られる」ことを信じて苦しい勉強を続けてください。
スケジュールは計画に狂いが生じたときのためのもの
「第1期:単語と文法」「第2期:多読」「第3期:過去問」のスケジュールは、途中で狂いが生じるかもしれません。英語だけを勉強するのであれば、計画とおりに進めることができるかもしれませんが、受験ではそうはいきません。では、計画に狂いが生じるのであれば、スケジュールをつくる意味がないのかというと、もちろんそのようなことはありません。
むしろ、計画に狂いが生じるからこそ、スケジュールが重要になります。そもそもスケジュールをつくらなければ、計画が狂うことはありません。計画の狂いは「悪いこと」ではありません。計画が狂うと、あせりが生じ勉強のモチベーションになります。
また、計画が狂ったことで、計画をつくったときに想定していたほど、今の自分が成長していないことがわかります。つまり、自分の現状を客観的に把握することができるのです。現状を把握することで、入試までにしなければならないことがみえてきます。
まとめ
英語が苦手なままでは受験に勝つことはできません。その他の教科の実力は十分合格ラインに達しているのに、英語が苦手なだけで志望大学を逃すのは切ないでしょう。苦手な科目や嫌いな科目は、計画とスケジューリングで勉強を自動化してシステマチックに修得していくことが鉄則です。
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