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その「赤本の勉強法」は間違っている可能性があります

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大学受験の勉強法は年々進化していて、今ではインターネットを使った最新式もありますが、それでもなお「赤本」は、受験生の必須の書の地位を保っています。赤本とは、株式会社世界思想社教学社(本社・京都市、以下、教学社)が発行する大学入試過去問題集「大学入試シリーズ」の愛称です。表紙が赤いことから、いつしかその呼び名が定着しました。
この記事では、赤本の「正体」と「正しい使い方」を紹介します。

赤本とは、赤本の構成とは

赤本は50年以上の歴史を持つ大学受験用の書籍で、大学ごと、文系理系ごと、学部ごとに1冊出ています。内容は、入試の過去問と解答解説です。過去問の数は本ごとに異なり、5年分だったり7年分だったりします。

◇文系用と理系用の赤本がある
例えば、「大学入試シリーズ 北海道大学 文系 前期日程」は北大文系の過去問が5年分載っていて、価格は2,100円+税となっています。北大の赤本にはその他に「理系 前期日程」が発売されています。

東大用赤本には「大学入試シリーズ 東京大学 文科」と「大学入試シリーズ 東京大学 理科」があり、いずれも過去問7年分で2,200円+税となっています。文系の受験生は理系の過去問は要りませんし、理系には文系の問題が不要なので、文理を別冊にしているのは合理的です。

◇青山は7冊、慶応は10冊
私立大向けの赤本はさらに細分化されていて、例えば、青山学院大用の赤本は次の7冊が出版されています。
・青山学院大学(法学部〈A方式〉・国際政治経済学部−個別学部日程)
・青山学院大学(経済学部−個別学部日程)
・青山学院大学(経営学部〈A方式〉−個別学部日程)
・青山学院大学(文学部・教育人間科学部・社会情報学部・コミュニティ人間科学部〈A方式〉−個別学部日程)
・青山学院大学(総合文化政策学部・地球社会共生学部・法学部〈B方式〉・経営学部〈B方式〉・コミュニティ人間科学部〈B方式・C方式〉-個別学部日程)
・青山学院大学(理工学部−個別学部日程)
・青山学院大学(全学部日程)
複雑化している私立の入試制度に赤本もしっかり対応しています。

慶応義塾大用の赤本に至っては、次の10冊が出ています。
・慶應義塾大学(法学部)
・慶應義塾大学(経済学部)
・慶應義塾大学(商学部)
・慶應義塾大学(文学部)
・慶應義塾大学(総合政策学部)
・慶應義塾大学(環境情報学部)
・慶應義塾大学(理工学部)
・慶應義塾大学(医学部)
・慶應義塾大学(薬学部)
・慶應義塾大学(看護医療学部)

◇マイナー大学、センター試験、大学校用もある
受験生が多い大学の赤本はよく売れるので、学部ごとに本をつくっても採算が取れるのでしょう。価格は大体2,000円ほどですが、マイナー大学の場合3,200円や3,600円といった価格になっています。

センター試験の赤本は、「英語」「数学Ⅰ・A/Ⅱ・B」「国語」「日本史B」「世界史B」「地理B」「現代社会」「倫理,政治・経済/倫理」「政治・経済」「物理」「化学」「生物」「地学」の13冊が出ています。

さらに文部科学省の所管の「大学」だけでなく、文部科学省の所管外の「大学校」の赤本もあります。例えば、海上保安大学校、気象大学校、航空保安大学校、防衛医科大学校などです。

◇5月ごろ、最新版が発売される
赤本は毎年5月ぐらいに翌年1~2月の入試を受ける受験生向けの最新版が発売されます。教学社では過去の赤本をバックナンバーとして販売していません。したがって、10年分の過去問に挑戦したい受験生は、高校の進路指導室や図書館などにある古い赤本を借りるしかありません。

◇赤本編集部で解答を作成
赤本には解答や解説が掲載されていますが、これは赤本編集部が、出題した大学から入手しているわけではありません。赤本編集部が高校教師や予備校講師、大学教員などに発注して、解答をつくってもらっています。

赤本は買い急いではいけない

赤本の使い方で注意しなければならないのは「使わない」方法です。高3に進級してすぐに「よし○○大△△学部を目指すぞ」と決意して本屋に行って赤本を買って解き始める、といった使い方はしないでください。

まず、4月の時点では最新版の赤本が出ていません。最新版の赤本は5月に出ますので、これを買ってください。それは最新版の赤本にはその年の1~2月に行われた入試の問題が入っているからです。つまり、4月に購入できる赤本には最新の入試問題が掲載されていないのです。これでは最新の傾向をつかむことができません。

また、高3の4月段階で決めた志望大学学部は、これからの学力次第で変わってくる可能性があります。もしくは、理系志望者が受験期間中に文系に転じることもあります。志望大学をランクアップさせたり、もしくはランクダウンさせたり文理を変更したりしたら、赤本も買い直さなければなりません。それまで志望していた大学を滑り止めとしても受験しないのであれば、その赤本は完全に無駄になってしまいます。

赤本は解き急いではいけない

赤本は5月以降に発売される最新版を使えば十分間に合います。なぜなら、夏休み前に赤本に取り組まないほうがよいからです。これは高3生だけでなく、浪人生にも同じことがいえます。

なぜなら、春先の学力と夏休み後の学力には大きな差があるからです。春先のまだ学力が低い段階で志望大学の赤本に挑んでも歯が立たないでしょう。すると、「この大学には合格できない」という気持ちになり、自信を失い、苦手意識が芽生えてしまいます。受験は苦しい闘いなので、強い気持ちを持つことが大切です。自信喪失はマイナスになるだけです。

「6割ぐらいの実力」がついたら赤本に挑戦しよう

赤本に取り組む時期は、夏休み明けの9月がベストです。まずは、赤本に掲載されている、最も古い過去問に挑戦してみましょう。もし、スラスラ解けるのであれば、志望大学のランクをひとつ上げてもいいでしょう。その赤本は無駄になってしまいますが、志望大学のランクが上がるなら2,000円の投資はやむを得ないでしょう。

過去問を解いてみて、もし「ほとんど解けない」という場合でも、落ち込む必要はありません。なぜなら、まだ9月だからです。9月以降の学力上昇スピードは、8月までの学力上昇スピードをはるかに上回るからです。しかも9月ではまだ、志望大学ごとの入試対策に取りかかっていないはずです。8月までは基礎学力を上げる時期なので、過去問に慣れていなくて当然です。

もし、9月になって初めて赤本を解いて「全然わからない」「まったく歯が立たない」とわかったら、志望大学のランクを下げましょう。ここでも落ち込む必要はなく「自分の正味の実力」がわかったことに感謝しましょう。

もし赤本を解いていなかったら、無謀な挑戦を続けていたかもしれません。志望大学を高く設定しすぎたことが9月で判明したことは、むしろ幸運です。赤本を使った最初の過去問挑戦は、志望大学に合格するために必要な学力の6割ほどが身についたぐらいがちょうどよいでしょう。9月はまさに絶好のタイミングといえます。

本番と同じ時間で解く

赤本を解くとき、本番の試験を模して取り組んでください。つまり、1問解いて解答を確認するのではなく、最初から最後までとおしで解いてみてください。机の上には赤本と筆記用具と時計しか置かず、わからない問題があっても参考書をみたりしないでください。

そして、本番と同じ試験時間内に解いてください。アラームを設定しておくとより緊張感が増すでしょう。また、赤本に挑む前にトイレに行っておき、中座しないで済むようにしておいてください。このような準備をすることで「もし今日が本番だったら自分は合格できるのか」を確かめることができます。

◇確信とあせりを赤本から得る
そして、緊張状態のなかで赤本と向き合うことによって「確信とあせり」の両方を得ることができます。両方とも受験には重要です。

過去問の設問を読みながら答えが想像できれば、その知識は完全に自分のものになっています。この確信を増やすことが、受験勉強の目標になります。過去問の設問をみて「この領域はまだ勉強していないから、今解けなくても問題ない」と思えることも、確信の一種といえます。

また、赤本を解くことによって、あせることも大切です。得意分野だと思っていた設問に誤答したら、大反省しなければなりません。記憶に定着していないのか、浅くしか勉強していなかったのか、勘違いして覚えていたのか、といった検証をする必要があります。得意分野で得点できなければ、合格はかないません。あせりを勉強のモチベーションに使いましょう。

赤本は復習と分析が大切

赤本を解いたら「解きっ放し」にしないでください。解いた過去問を徹底的に分解して分析してください。そして、そのなかから自分の強みと弱みを発見し、強みを伸ばして弱みを克服する勉強に取り組んでください。

過去問を解き終わったらノートに、小問・中問・大問の構成比率や出題領域、質問形態や記述解答の文字数を書き出してください。過去問のなかから重要キーワードを抽出し、それもノートに書いておきましょう。

過去問を分析するとき、入試を作成している人の気持ちになってください。入試の作成者たちは、毎年まったく新しい形態の問題をつくっているわけではありません。かといって過去10年以内に出題した分野を取り扱うわけにはいきません。そこで入試の作成者たちは、まずはフォーマット(書式、型)を用意しておき、そのフォーマットに学習領域を当てはめるようにしているのです。

つまり、例えば国語の試験で漢字を出題する大学は、毎年漢字を出題しますが、受験生に書かせる漢字は過去に出題していないものを選びます。さらに、ある大学の英語の長文読解は、社会問題を取り扱った文章が使われることが多い、ということがわかるかもしれません。過去問分析とは入試の作成者の癖を読み取ることであり、それこそが「その大学の入試対策」です。

【重要】過去問を解く意義とは

赤本が受験生にとって必須の書になっているのは、過去問に効率よく取り組むことができるからです。それくらい、過去問を解くことは重要です。難関大学の入試問題と中堅大学の入試問題、偏差値が高くない大学の入試問題には次のような違いがあります。

難関大学の入試

中堅大学の入試

偏差値が高くない

大学の入試

独特な問題

応用問題

基礎問題

応用問題

基礎問題

偏差値が高くない大学では、入試に基礎問題を多く出します。そうしないと解ける人が少なくなってしまい、点差が開かないからです。点差が開かないと同じ点数を取る人が増えるので合格ラインを引くことが難しくなります。中堅大学の入試で基礎問題ばかり出してしまうと、今度は解ける人が多くなるので、やはり点差が開かなくなります。そこで中堅大学では応用問題を適度に混ぜて、解ける人と解けない人をわけるのです。

そして、難関大学に挑戦する受験生は応用問題も軽々解いてしまいます。それでは点差が開かないので、難関大学は独特な問題を出します。独特な問題とは、その教科の知識だけでなく考え方や解き方、社会常識などを知っていないと解けない問題のことです。独特な問題では、「正解以上の正解」が求められます。つまり、普通に正解しても得点できず、出題者が意図する解答をしないと合格点を得ることができません。

例えば、過去の京大入試の英語で、次のような設問が出ました。英語長文のなかの「the savior complex」に下線が引かれ、「下線部はどのようなものか。本文に即して日本語で説明しなさい」と出題されました。

「普通の正解」は「救世主に関する複雑な感情」となりますが、それでは京大英語では正解になりません。さらに「他人を救おうとする人が陥る一方的な思い込み」だけでも足りません。

京大英語の正解を得るには、次のように回答しなければなりません。 「自分は他人を救う救世主である、と思い込む人がいる。そのような人は、自分は他人を救う力を持っていると考え、さらに他人は自分によって救われたがっているとも思っている。他人を救おうと思っている人が陥る一方的な思い込みのことをthe savior complexという」

これはとても難しい問題ですが、逆の見方をすれば京大を目指さない人はここまでの学力は必要ありません。つまり、過去問は「自分が取り組むべき勉強」を教えてくれるのです。赤本には5年分ほどの過去問が掲載されています。それを解いたり分析したりすることで、勉強の方向性をつかむことができます。

まとめ

赤本には、志望大学を確定する意義もあります。赤本は1冊2,000円くらいするので、お金を節約するには、本命大学と滑り止め大学の赤本だけを買うことになります。つまり、ある大学の赤本を買うということは、「この大学に挑戦する」という決意表明でもあるわけです。赤本を手にすると、身が引き締まるでしょう。

赤本は5月以降に書店に出回る最新版を買い、9月ごろから解き始めましょうとアドバイスしました。赤本を解き始める前に志望大学を確定しなければなりませんし、赤本を解き始めるということは、その大学入試の対策に乗り出すことなので、もう後戻りできません。赤本の赤は、覚悟を示す色でもあるのです。


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